六月といえばやはり更衣(ころもがえ)の季節。
青葉の五月に続き更衣の六月と、夏の爽やかさに期待も膨らむ季節ですね。
さて今月も、この季節ならではの楽しい俳句をご紹介します。
蕉門の重鎮、松尾芭蕉の右腕とも言われた榎本其角に、
越後屋に衣さく音や更衣
芭蕉師匠が眉を顰めたくなるくらい洒脱で都会的で、風俗を良く写した一句があります。
越後屋とは、説明するまでもなく現在の三越百貨店で、「現金掛け値なし」の、安売り、切り売り、薄利多売商法で、元禄の江戸の人気をさらいました。
その頃、反物は一反売りが原則。その常識を覆して越後屋は、お客に応じて必要なだけ切り売りした。
お客はあれやこれやと物色して、これをどれほどあれをどれだけと、一反売りの時よりもバラエティに富んだ買い物を楽しめたそうで、かえって「ついで買い」が増えたほど。
手代は店先でこれ見よがしに、お客の求めに応じてあれやこれやと絹や木綿を勢いよくピッと裂いていたそうですな。越後屋では、更衣の季節ともなれば、そんな景気のいい音が絶えることがなかったのでしょう。
今時の風俗を敏感に取り入れて季題を提起したところが斬新で、これも私の好きな一句。
ところで越後屋といえば、私などが敷衍するまでもなく、後の三井財閥の始まりとなるわけですが、その業態は呉服商兼両替商。つまり呉服で儲けたお金を金融取引で何倍にも膨らませていた。上手く考えられたシステムですね。
商売で得た巨利を大事に蓄えて、明治以降も大躍進した。
以前、ある商社を通して、シンガポールの華僑が商談に来たことがありました。
名刺を交換すると、「ミツハラ・カンパニー」という会社。
「おや、日本の会社ですか?」
と尋ねたら、面白い答が返ってきた。
聞けば純然たる華僑資本の会社らしいのですが、日本風の名前、とくに三井や三菱にあやかった「ミツ○○」と言うような名前は、東南アジアなどでは俄然かっこよく映るらしい。
私どもの業界が、よくイタリアやフランスに範をとってブランドや店の名前をひねり出す、いやそれ以上のブランド効果があるらしいのですね。
日本橋の越後屋前で、更衣の繁盛ぶりを取材した其角先生も、
よもや後々、三井の人気が世界に広がっていようとは、
流石に予想できなかっただろうなどと考えますと楽しくなります。
百年企業どころか、次代を切り開くアイデアと野心こそ、
その企業に永遠の命を吹き込むことになるのだと感じ入りますね。
三井家の越後屋さんの話をつい書きすぎましたが、
私ども福井の住人としては、越前丸岡出身の住友家の家祖、
住友政友(すみともまさとも)さんについてもいつか書かなければ
片手落ちになると思っています。
さて、花の話はといえば、紫陽花。
色変わりをする花ですが、夏の更衣の季節にはよくそぐう花。
そして原種は日本産らしいのですが、今日我々がよく見るそれは、
西洋で品種改良された逆輸入の品種がほとんど。
「ミツ○○」ではありませんが、海の向こうでは日本の花の
代表格に掲げられることもあるそうですよ。